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極超高層の都市時代
日本建築士会連合会会長 菊竹清訓
<都市化は止まらない>
日本には都市改革の資金が無いとか、政府も民間も都市建設の財政的余裕がないためそれが進まないというのは、真っ赤なウソである。法的規制の緩和や技術開発の遅れがないではないが、何より切実な社会的ニーズになっている高層立体化のビジョンの欠落が原因である。
日本の都市への人口集中は、新たな段階を迎えている。大都市の過密・通勤地獄・地価高騰・災害危険・大気汚染・・。それでも都市化は止まず、大都市のエネルギー・活力・魅力に人は集まり続け、地方都市は人口減でも、センターポリスへの人口圧は弱まっていない。大都市の都心の空洞化もあるが、周辺人口は増え続け、なぜか人々は、新しい活動の舞台を求めて移動している。この都市現象は比類ない更新性が背景としてあるのかもしれない。問題は、その受け皿としての都市基盤の脆弱老朽化である。
そこに都市再構築で極超高層の出現の意味がある。人口五十万人を収容する高さ千メートル(世界最高)、延面積千ヘクタール、耐久性千年という立体都心都市が、ハイパービル研究として、以前から進められてきた。これは新しい都市環境の建設・運営によって、世界でもっとも魅力ある都市をつくろうとするためのものである。
新しい情報化社会への転換にそった日本の未来を担う社会基盤づくりには、高度に発達した日本の各産業、鉄、ガラス、セメント、機械、家電、情報、通信、ロボット、自動車、造船(巨大架構に必要)などのすべてを総合的にシステム化して取り組む必要がある。そうすれば、高層立体構造物はニーズを満たし、一方で人々の不安感を解消できる。
<水平移動より立体新都心>
一棟数兆円の建設費を要し、建設期間十年以上。かつて十六世紀、江戸時代に全国で一斉に城下町づくりが進んだように、全国で数十カ所の建設に取り組むことになろう。これは建設省を中心とした民間企業との共同研究であるが、都市の立体化以外に方法が見つからないほど、人口圧に悩む日本の都市の非能率は深刻である。
試みに首都移転がどうなるか。ケーススタディを行ったところ、水平移転の首都より、立体新首都の方が、東京との交通、文化ストックの利用、快適、利便、効率に優れ、コストも大きく圧縮できるところから、有力な選択肢の一つとみられている。
新首都建設には、人(技術者)・物(産業)・金(財政)が条件となる。財政・産業以外の人ではどうか。我が国では国家試験のライセンス取得者による建築士の全国大会が去る十一月、奈良で開催され、四千人余が集まって「環境を守る知的空間」(世界最大規模)の役割が討議されたが、古都千年の歴史の上に、これからの千年を見据えて、新しい都市への挑戦をとらえようとするとき、人材の不安はなく、我が国の建設関連の技術者は、その裾野がひろく、教育水準が高く、経験の豊かさにおいて、海外諸国を圧倒している。
二、三の例を挙げれば、海底トンネルでは、関門、青函の実績をもち、英仏ドーバートンネルを完成させたのは、日本の技術と技術者の力量である。また数多くの大規模な吊り橋の実現は、テンション・ワイヤーの世界一の生産供給と技術があってのことである。純チタニウムもメンテナンスフリーの新素材として、注目されている次世代の建築材料であるが、その生産は我が国が先導している。また情報化社会にとって、動脈となる光ファイバーの生産も日本が世界を圧倒している。ソーラー電池、ニューセラミックからハイブリッドガラスの生産、新耐火鉄骨の開発など、環境をつくっていく上での基本的材料や技術、そしてそれらの産業がいずれも高度に発達しているのである。こういった状態は一体何を意味するか。
<自然と人工環境の調和>
まさに壮大な環境更新時代の幕開けで、極超高層のハイパー建設を目指し、蓄えられた人・物・金を環境づくりに結集する時である。言い換えれば、都市社会のニーズが、極超高層の出番を待っているということである。
環境づくりには、高齢者パワーも、経験と知恵で大いに活躍してもらわなければならない。新しい情報産業やロボット産業も、さらなる技術開発で参加し、教育・医療・住居の各分野で、健全な居住環境という人間にとっての基本的環境づくりの実現を目指すことが求められている。
環境づくりは、自然と人工環境の調和を目指して、生態的(エコロジカル)で生物的(バイオロジカル)な新産業分野を拓きこれを発展させ、新しい自然共生の道を開くことも重要であろう。
極超高層のハイパービルは都市の環境革命のカギである。地球環境時代の都市づくりが歴史的人類共存の思想のシンボルになるかもしれない。
産経新聞「正論」1998年12月11日
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