リスボン海洋博のインパクト

東京建築士会会長 菊竹清訓

<環境は人類共通の課題>
 エキスポは、歴史的に単なるお祭りでなく、各国の新しい課題への取り組みを国際的に発表する場であった。私は、第一回の沖縄海洋博で、政府館アクアポリスの計画に参加した関係で、二十三年後の第二回リスボン海洋博に、各国がどう取り組んでいるか、去る五月二十二日のオープンを、興味を持って見学した。

 今日、当面している人類共通の課題は、環境問題であって、人口増、食糧問題、エネルギー、諸資源の欠乏、大気汚染、自然破壊など、多くの深刻な問題をかかえている。この困難な問題解決に希望と勇気を与えるのが、エキスポであり、国連の海洋年にあって、それが今、海洋に求められているものだと思う。

 最近の世界経済環境のためか、残念ながら各国のパビリオンの展示内容は、総じてインパクトに欠けていたが、その中で、ドイツ館が光っていた。観客に水深百メートルの体験と、最後は次回開催地のハノーバーまで、バーチャルで案内するという面白いユニークな企画で、海洋問題を分かりやすく紹介し、何より世界でのドイツの役割を知らない間に教えてくれる、心にくい展示である。

 主催国のポルトガル館は、大航海時代の先導的役割を担ってきただけに展示にも「発見のシンボル」に明らかように、エンリケ王子を先頭に、天文学者、宣教師、船乗り、商人、軍隊という一連のグループによって世界への進出を果たし、日本も1541年に発見されたと記録されて、勇ましい。映像展示も面白いが、しかし明日に向かって、どういう協力関係が成立するのか、知りたいと思った。

 日本館は、アメリカ、ドイツと並んで、スペースを大きく確保し、映像の多用や、豊富な事例がにぎやかだ。海ガメを駆使した海と人との関わりもユニークである。一方で日本の役割や使命を担う各種技術の展示が意外に少なく、各省庁のよせ集めには限界があり、個々の情報を全体にまとめるプロデューサーが必要だと思われた。
 外国パビリオンの配置は、会場を東西二棟に分け、その区分されたスペースを各国展示で埋める形になっており、うまく費用を節約している。

<海岸都市をどう作るか>
 全体の会場の広さは30ヘクタールと余り広くないが、海岸沿いの立地を生かし、空港からは直線のアクセス道路をとり、旧市街とは、バス、地下鉄、路面電車で結ばれている。また将来の地区開発計画や船舶用港湾との関係についても、分かりやすく計画されている。

 これからの海岸都市をどうつくるかでは、建築のシステム的生産・建設や新しい遮光屋根、膜利用の外観表現など、随所に興味ある試みが見られ、新しいポルトガル国家像を控え目ながら、正当なアプローチで実現し、共感するところが多い。

<技術展示少ない日本館>
 ひるがえって、日本の展示の取り組みは、海洋国家としての関連技術には、世界に誇る最高度の集積があるのだから、これらをもっと積極的に取り上げてよかったのではないか。

 例えば、しんかい6500は世界最深の調査船で、深海映像の分析や成果の発表があってもよかった。また我が国には世界最初の超伝導船の実験があり、タイタニックに代わる新しい巨大豪華客船のための、この先導的実験の紹介も是非して欲しかった。

 また30万トンから50万トンの巨大タンカーから、小型のプレジャーボートまで、その生産は日本が世界最大で、観光やスポーツ分野に幅広く役立っている。また英仏ドーバー海峡の海底トンネルは、日本の掘削技術で実現したもので、もっと詳しく紹介してもよかったのではないか。また、これから始まる世紀の海底大容量の通信ケーブルネットワークに、我が国の光ファイバーが貢献しつつあることは、特筆されてよい。

 もちろん、魚類・貝類・海草類など、海洋食糧支援の開拓では、早くから養殖技術を開発し、アジア・南米・その他の途上国への漁業支援がOECDの援助で進められていることも、紹介してもらいたかった。

 また特筆すべき技術として、第一回の沖縄海洋博で実現した、アクアポリスでの浮体構造は、現在メガフロート機構の実験に進んでいることを明らかにして欲しかった。日本は海洋の先進国として、まだまだこれらの技術を総合したビジョンの構築にまでは至っていないとはいえ、少なくとも人類共通の環境問題解決のために、役立っていることをもっと大胆に主張してよかった。

 特に企業参加をどう扱うかは、新しい課題で、これはオリンピックなどと同様に、国境を越えて民間企業の貢献が大きくなってきている状況から言えば、これらの現実を踏まえて、エキスポをもっと強烈な魅力のあるイベントとするような内容の構成をする時期に来ているのかも知れない。

産経新聞「正論」1998年6月13日


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