都知事の環状道路構想を評価

建築家 菊竹清訓

<行政への怒り爆発寸前>
 石原慎太郎東京都知事が、都の交通渋滞の解消に環状道路の建設促進を宣言されたことに私は賛成する。都市計画の重点的実行という意思表明は百年ぶりの快挙である。これまで、混乱し渋滞していた東京都内の交通問題は、全く放置されていた。都市行政というのは一体どうなっているのか。都市計画税を徴収しながらこれは交通行政の怠慢ではないか、と専門家は疑っていたが、事業決定をしながら七十年も放置されたままの道路など、正にその証拠であった。交通の停滞は行政の停滞であって、こういう都市に不信を抱き、鋭く非難する声が高まり、行政への怒りは爆発寸前だった。その都度、建設不能は道路周辺住民の反対だとか、地価が高く用地確保が難しい、との釈明だった。

 今度、建設省(現:国土交通省)と都が一緒になって住民の意向調査をするという。その第一歩として七千人にアンケートをとるところから手順をふんで着手するという。あまりに遅い対応ではあるが、このような住民参加方式をとるというニュースに対しては、賛成する人が多かった。

 この方式をとるとして、そのルートが良いか悪いか、あるいは、こういう建設に対してどう思うかなどといったことについては、総合的に反対する人はいないと思う。しかし、自分の土地がルートに引っかかるとなると、そこで反対だ、ということになるのが通例だった。

 環状ルートとして東京、千葉、埼玉、神奈川県にまたがる広域で訪問面接をして、検討方法の賛否を求めるということだが、そこで地主に言いたいことは、地価をつり上げて道路建設を妨害してはならない。また今までは、騒音や大気汚染などの被害を考えて、そのルートの関連地域だけが反対という筋書きは自治に反するものとして許されない。

<ハイブリッド道路建設を>
 ただ今度の都心交通の緩和で考えていただきたいことは、新しい道路方式を一緒にし、平面道路方式か、地下トンネル方式か、それとも立体利用のハイブリッド方式か、住民にとってどれがいいかもあわせてアンケートをとることをすすめたい。例えばハイブリッド方式では、道路もつくるしパーキングもつくる。同時に災害に強い上下水道・電信・電話・電力などの都市基盤も一緒につくる。あわせて困っている住宅環境を一挙に解決するというようなハイブリッド道路を建設する技術が、わが国では二十五年にわたって研究(通産省・建設省)され、その成果は実施を待つばかりである。このような、道路とあわせて環境問題を解決する新技術情報も住民に公開し環境づくりでの住民参加を実りあるものにしてもらいたい。

 かつて藤沢市で葉山市長の時に、夏の間だけ湘南海岸を通過、利用する自動車に対して特別税をかけることを提案したが、国道なので市に権限がないということで、結局実現しなかった。

 しかしヨーロッパの自治体は、交通・警察・消防でいかに自治体を守るかに強い権限をもっていると、磯村英一(元東洋大学長)は説かれていた。先生は戦後、米軍の東京進駐の際、渋谷区長として市民のシティホールを軍に引き渡すことはできないと、立ち退きに応ぜず、区役所を接収させなかったという経験をお持ちである。英国では、エリザベス女王でもロンドンに入る時は、いちいちロンドン市長の許可を得なければ入れない。その位、知事や市長には市民を代表した権限がある。

<ネットワーク利用が課題>
 私はそういう点で、石原東京都知事には環状道路建設で交通緩和をする権限があると考える。東京の都市計画を、市民のための都市に生活環境を変えていく、まずその第一歩が始まるとすれば、後藤新平以来の快挙である。

 単純化して言えば、都市交通システムは、道路パターンとしてグリッド型か、放射型のいずれかであった。東京は放射型だから、自ら交通は都心に集中するし、その結果、混雑、渋滞がおこる。これを解消するには、バイパスの環状道路をつくる以外にない。これまでに環状道路をつくる努力は多少はやってきているが、道路はネットワークとしてつながらないことには機能しない。問題は、環状道路にとどまらず道路をネットワークとして利用できるものにすることが目標である。

 いまや情報技術(IT)によって、道路に埋め込んだ誘導線と車のナビゲーターによって運転経路の選択や、安全円滑な走行を可能とする研究も完成している。またハイウェーと地上交通を結ぶうえで、出口を増やした交通ネットワークの有効性も議論されるなど、都市交通は次々に開発され、展開をみせようとしている。これらの新知識は良く理解されるよう、わかりやすい科学技術情報として広く公開されて、一般社会の認識に役立てられることが必要である。

 アンケートはまさに好機である。是非、世界最大の巨大都市東京の自動車交通を世界に先駆けて解決し、最も優れた魅力ある都市にしていくことに市民がこぞって結集することが望まれる。

産経新聞「正論」2000年3月2日


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