●伝統文化支えた母体●
 私は「美しい国土づくり」を、かつて田中内閣の日本列島改造論で提案した。委員のみんなが、経済成長・発展を述べる中で、この意見は異色で、国土庁の下河辺淳次官(当時)が会議で紹介してくださった。その後、東海道メガロポリスや、臨海コンビナートの成功で、日本は世界一の経済大国になったものの、いまや国民の心身は衰弱、都心空洞化、郊外スプロール、農村の荒廃で、全国土、正に荒れなんとする状況にある。 
 いま私は再び日本の基盤となる、わが国らしい「環境づくり」を目標に掲げることを提言したい。竹下元総理のふるさと創生も同じ発想であったと思う。美しい国土の建設こそみんなの希いである。
 今日の農業・建設業は、いかにも時代遅れの第一次産業としか見られていないが、美しい国づくりの主役だと思っている。この二つは環境づくりからみると、意外に似たところが多い。例えばともに地場産業で、農業200万、建設600万の就業人口をかかえ、これが国土にひろく分布し、独特の地域性をもって、なりたっている。
 またこれまで、二つはともに失業者を吸収し、高齢者を迎え、あえて強調すれば、心の安定と日本の伝統文化を支えてきた母体であった。
 言いかえれば、環境づくりで農業が自然を、都市が人工をになってきた。ともに経済計算にのらない景観、風土づくりで農業・建設業は年間百兆円規模にも達する、日本経済の基幹産業であることはよく知られている。
 それに農業も建設業も、一度つくれば終わりではなく、毎年輪作したり、また数年ごとの増改築など、長期のサステナブル(持続可能)産業として成りたってきたことも忘れてはならない特徴である。

●冬眠状態の国民の蓄え●
 ところが、農業については「安い米を海外から買えばよい」という説もあるが、先進国の米・仏など、農業がしっかりしている。建設業もマーケット・メカニズムによるコスト競争だけでは環境の質を長期に支えていく上で問題がある。
ここで新政権にいいたいことは「環境づくり」という地球環境時代の国際的テーマに、わが国として正面から立ち向かってもらいたいということである。
 財政再建も、構造改革もみんな、基盤となる環境あってのことである。それには二つの産業を合わせた、先端技術によるIT(情報技術)革命で生まれかわった新環境づくり産業とでも言えるものを立ち上げてもらいたい。
 そのわけは、環境づくりの高度の諸条件が、一応は世界に誇るまでに発達しているからである。鉄・ガラス・セメント・造船・自動車・機械・情報・ロボット等、環境づくりに必要なすべての産業が、よく成長発展している。しかし残念ながらこれらを投入する対象プロジェクトが国内になく、小規模・短期・タテ割りの矮小プロジェクトばかりで、大局的に見ると、かえって環境悪化を招く巨大ゴミの乱造になっている。
 また財政的に、国には限界があるが、環境づくりの総合的巨大プロジェクトを、全国で展開するに足る1200兆円の蓄えが、冬眠状態で、生かされていない。
 それに、すぐれて勤勉で、知的、教養のある高い文化をもった経験豊かな技術者、技能者、政財官の豊富な人材が高齢化の理由でリタイヤする直前にある。
日本の環境は、都市・農村ともに零細・超過密・荒廃がすすみ、地震、洪水の多災害にも安全とは言いきれない。ライフスタイルも、繁栄の悲惨さ、身近な虚栄、資源・財産の浪費と、いき場のない状況である。

●アジアの知恵生かす時●
わが国はかつて十六世紀に、全国の城下町づくりをわずか数十年で実現したの経済大国の経験と能力があることを、経済学者の角山栄先生は指摘されている。二十世紀のいま、これを遥かに凌ぐ経済的・技術的・文化的能力があって、いまならもっと短期間で見事な達成が可能であろう。
 ところが、建設業といえば悪の代表で、バラまき公共事業の受皿のようにいわれている。しかし文化的風土環境構築という役割があり、この正当な評価で、農業、建設業の関係者の誇りと意欲を鼓舞すれば道はひらかれる。
資源の少ない(地球も有限)日本の将来に対して、電力中央研究所の有識者会議で、循環文明論が京大の佐和隆光教授によって主張されているが、二十世紀の環境づくりのキーワードは、正にこの「循環更新文明」というサステナブルな環境づくりの構築にある。
 しかもこれは、中国や日本の、東洋的木造システムによる家づくり、都市づくりにみることのできるもので、環境を更新性をもったものとしてつくることは、数千年にわたるアジアの知慧の成果である。
 森新政権は、循環型経済にたいして省資源・省エネの更新型環境づくりというわが国の伝統をうけつぎ、世界の環境づくりの模範となるすばらしい文化遺産として、後世に残る美しい全国土の環境づくりにとりくんでもらいたい。
Copyright 2003, Kikutake Kiyonori., all rights reserved.


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