●火災下火になるとみたが● 
 現代文明のシンボルである超高層と、先端技術の集大成であるジェット機によって、大災害が発生した。NYの世界貿易センタービルに民間ジェット機が激突したのである。このテレビ映像に、強烈なショックを世界中の人々は受けたに違いない。これが現実におこっていることとは、だれもが等しく信じられなかったであろう。これはまさに歴史的事件であり、世界を恐怖に巻きこんだテロ攻撃であったからである。この事件を、ブッシュ大統領は、「21世紀の新しい戦争が始まった」と述べている。

 最初の報道で、超高層のツインタワーとして有名な、美しいスカイラインを持ったWTCの北棟の上部から黒煙が上がっていた。しかし、いずれ煙はおさまるものとみていた。ペーパーレスの最近のオフィスには、大量の燃え草はないからである。それに、防災避難階が超高層の中段二箇所に設けられていて、そこで火災の類焼は止まるはずであった。スプリンクラー(自動消化設備)も稼動すれば、やがて下火になるとみていたからである。

 このオフィスビルの中心は、エレベーター、階段、シャフト等でかためられていて、構造的に強い幹になっていた。この幹から四周に梁を延ばし、これに窓枠を固定した、ちょうど鳥かごのような構造になっていた。建設中の上階に、設計者のミノル・ヤマサキ氏に案内していただいたとき、オフィスをいかに広々ととることに苦心したか、とか、格子のような窓枠も、繊細な美しさを持っていて、しかもこれが、強風下の高所作業の工事中の安全まで考えたデザインであったことを教えられた。また事件直後に、構造家のレスリー・ロバートソン氏よりメールが届いた。構造的に、当時のボーイング707が万一ぶつかっても、大丈夫なように設計していたという。

●アイデアを生かしたのに●
 一般に、超高層建築では、エレベーターの数が下階になるほど多くなり、オフィスに使える面積が狭くなる。これを解決するため、高層の途中で2回乗り換えることで、エレベーターシャフトの面積を3分の1に縮小すると同時に、乗り換え階は、セキュリティチェックにも好都合だとした、こういう卓抜なアイデアで、世界一の超高層ははじめて実現したのであった。以後の超高層は、ほとんど同じ乗継ぎ方式を採用していることがその証拠である。

 この事件は昼間だったので、火災や破壊の進行をまわりから観察することができた。煙の中に静かに沈んでいく不可解なアンテナ塔や、北塔の黒い煙に対して、18分後の2機目の再突入で、瞬間に赤い炎が噴出している。高オクタンの燃料で、一気に高温で炎上したことがわかった。

 黒い煙は、神経を麻痺させる有毒ガス、赤い炎は化学的に、大量の酸素を消費したであろう。いずれもこの災害のすさまじさを示すものである。南北二棟の超高層が、揃って決定的ダメージをうけ、わずか一時間余で崩壊するとは、とても信じられないことであった。これは明らかに、現代建築へのテロ攻撃であり、現代文明への挑戦であるといえる。

●テロ攻撃には自ら限界●
 少なくとも、これまでの地震・火災・台風などの自然災害に対しては、充分対応できるように、細心の注意を払って設計・計画されていた建築で、このため、WTCはNYのランドマークとなり、アメリカのシンボルとなった。

 テロ攻撃に対処するのは自ずから限界があるが、少なくとも五、六万人がいたと思われる超高層から、避難階段を使って短時間に多数の避難ができ、死者が六千人(未確認)に留まったことは、この超高層が、すぐれた計画であったことを物語っている。

 こうした事態に、五十階建てのオフィスビル四棟で再開発する案も示されているが、さらに新しい巨大都市のシンボルとして高さ千米の極超高層をめざすハイパービルの研究も進んでいる。日本の企業約五十社が参加したこの研究会で七年にわたる研究は、直ちに再興に役立つものと考える。ここでの解決は、共有の都市的骨格と、オフィス群を組み合わせ、十層毎に避難階をとり、密閉型でなく開放型の、新しいタイプの、次世代の超高層を研究してきたものである。わが国の新技術とアメリカのテロに屈しない底力が必ずや結実し、超高層が再び実現するものと信じている。

 最後に、被害者に対し心から哀悼の意を表し、冥福を祈りたい。


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