人間の、自然、都市への適応のトータルシステムを仮に文化というなら、日本ではハードとしての建築システムと、ソフトであるライフスタイルが歴史的に蓄積され、それが濃密な日本の文化をつくり上げていた。 では、日本文化はなぜ今消滅しかかっているのか。それは戦時中、焼夷弾攻撃を受けた木造都市が、あえなく焼失し、このために燃える木材は使わないと決めたことによる。さらに、木造システムを徹底的に破壊し、減少させつつあるのは戦後の建築基準法の影響も少なくない。この法律によって新しく造られる建築は、住宅から公共建築に至まで木材の使用量は著しく減った。このため、実質的には、木材のもつ重要な湿度調節機能はなくなり、使用後は廃材になって、再利用の道は閉ざされている。木材の供給源である森林は、安い外材の輸入によって放置され、資源的循環が成立しなくなり、空気の浄化や保水能力を失い、洪水災害や水質汚染など、環境に影響が出始めている。そして緑の山並の風景も失われようとしている。 生活環境を後回しにし、まず、産業復興を優先したその最前線がコンビナートであった。朝鮮戦争が経済復興を加速したこともあったが、日本はみるみるうちに経済大国になった。これが、輸出型の産業構造の成功である。そして、気がついてみると、なんと生活環境づくりに必要な、多面的技術開発や産業の高度化がみられ、しかも揃って素晴らしい世界有数の先端産業群になっていた。今はチャンスである。これらの産業群を環境づくりにまとめて、内需型の産業構造に再編成し、国民の生活環境を真剣に考えることができる。状況になったのは幸いで、これを生かさなければならない。 今度は、国土交通省主導で、遅れた国土環境の再建をする番である。 いま問題になっている経済回復のプロセスであるが、都市再生は一つの選択である。とくに都心の生活環境に問題が集中的におこっており、都市間の競争も激化しているからである。残念なことに日本経済は長年、不良債券処理等に追われて、生活環境の再建プランは後回しになっている。経済と生活環境の再建問題は同時にすすめるという、トータルシステムで長期にわたる国土づくりをやろうということになれば、経済復興も見据えた国土づくりになる。そこで、「日本の文化の構築」という目標を掲げるべきである。その理由は千年にわたって木造システムを規模雄大な環境のグランドデザインとしてもっているからである。 これからは、もっと進化した鉄、セメント、ガラス、ニューセラミックやチタンなどの新素材からIT、ロボット、宇宙工学などの新技術、新産業が育ち、多種多様な資源、先端技術によるサスティナブルな循環更新文明というべき思想もあって、これらを環境に結び付ける条件は揃っている。 ところが今日、世界の状況が一変し、環境は、自然災害への対応だけでは済まされなくなった。新しく、テロ攻撃や核の脅威が、緊急の課題として出てきたのである。つまり強力な防衛も含めて、国土づくりを、俄に大転換しなければならなくなった。 災害に強い建築、あるいは防災都市にどう切り替えていくか。例えば地下シェルターやトンネルによる交通ネットワークでつながる地下都市や、超高層化の検討をはじめなくてはならない。どうやって人々を守り、安全を保障するか、これは社会全体の基本問題である。 我が国は広島、長崎を経験し、さらにサリンによるテロ攻撃にもあっている。それだけに、平和で安心して住める環境への強いニーズをもっている。心安やかな風景とそれを支える高性能の安全な都市をつくる認識があると私は考えている。 文化の構築を新たなトータルシステムとしてつくりあげ、より美しく、豊かに、安全と平和をつらぬく国土づくりに総力をあげて取り組む時がきた。 |