愛知万博は地球環境解決の前触れ

【正論】世界に発信したい「自然の叡智」
             
愛知万博総合プロデューサー 菊竹清訓

≪人類文化を考える機会に≫
 新世紀に入って人類の目標は何か。人々がみんなこのことを考える機会こそ万博であろう。
 地球環境の危機の中で人口の増加はアジアに突出し、人々は都市に集中し、一千万都市が数多く出現すると予測されている。そこで問題になるのが都心環境である。都心は過密環境のなかで、安全、防犯、防災が必要となるが、一方、世界の文化が集まって、楽しさや豊かさを増幅し、想像以上の美しく魅力的な環境となることは間違いない。
 こういう未来の状況が万博で垣間見ることができる。二十五日から名古屋市郊外で開催の環境と文化の愛知万博(愛・地球博)は、歴史に根差した人類文化の未来を考える絶好の機会となろう。
 百七十三ヘクタール(瀬戸会場含む)の会場に海外、国内合わせて百三十のパビリオンを緑の中に配置するのに、どんなことを考える必要があったか。万博は自然と共生し、人々が交流しあうまさに都心計画と言っていい環境のテーマである。
 それには二つのアプローチが必要となる。一つは道路のシステムであり、他の一つはパビリオンのグループ化だ。会場構想の原点である。最終的に、北と西のゲートから会場全体に観客を迎え、五大陸と海洋という六つのコモン(集落)にまとまった。

≪未来都市を象徴するループ≫
 とはいえ、敷地の四十メートルの高低差と、複雑な起伏を快い楽しさに変えるには、空中回廊(ループ)という新しいコンセプトの採用が不可欠であった。こういう新しい都心装置は、今後全国の都市で必要となろう。
 観客はまずループによる水平の道を回って会場全体の様子を眺めることになる。他にゴンドラや観覧車もある。日陰のループでゆっくりと時を過ごし、風の音や小鳥のさえずりに耳をすまし、ベンチに腰掛けて、往来する日本各地や海外からの人々の多種多様な文化に触れ、世代を越え、直接交流の機会を持つことにもなると思う。
 ループにはロボットの行列や各地のお祭りパレードが通り、見ていれば展示やイベントのエッセンスを居ながらにして知ることができる。トラムという乗り物も回ってくるので、約四十五分かけて会場を一巡してもよい。日本の屋台のような巡回する飲食のワゴンサービスも受けられる。ループは新しい都心の楽しさを満喫できる仕掛けである。
 ループが愛知万博のシンボルといわれる理由は展望台のようにまわりを眺め、どこからもすぐわかることにあるが、このループの発想は、市民に親しまれる都市インフラの研究からきている。わが国の未来の都市環境づくりのために、必要な考え方を多くの研究者が集まって知恵を絞った都心インフラ(公共基盤)のコンセプトである。

≪統合力の結実が成果発揮≫
 三十年前から国家的研究として開始され、今回その成果の一端が実現した。そこには日本の都市再生のための有力な方法が示されている。
 個々の展示は他に譲るとして、会場づくりをスケジュール通り実現した日本の実力に改めて驚かされる。新しい材料の生産、生産体制や組織とその方法、さらには建造、解体、再利用システムまで含め、万博の歴史でこれほどトータルに成果が発揮できたのは、すぐれた国力と統合力が日本にあった証拠であろう。
 これから始まる地球環境問題も、世界に先行して日本の建築学会が宣言を発表している。都心再生に大きな期待と夢を持たせてくれている。いまや、京都議定書をみても地球環境問題において、日本がその中心的存在として、温暖化防止や公害汚染防止などにリーダーシップを発揮することは間違いないだろう。愛知万博はその前触れである。
 相互の国際協力・長期・大規模プロジェクトを扱うマクロ計画は日本マクロ学会の挑戦で、砂漠緑化や海底トンネルなどに着々と実績をあげている。こうした経験を踏まえ、これからいよいよ国内の都市再生やアジアの新都市計画が始まろうとしている。
 日本は自動車、造船、IT、ロボット、宇宙から海上都市まで、世界をリードする広い分野での産業とその技術開発がめざましい。これらを統合して環境に立ち向かう人類の挑戦が始まる前夜にある。
 これらは各国が力を合わせて取り組んでいく文化的大事業であろう。この万博が地球、宇宙、環境を考える機会となれば、国際的意義は大きい。愛知万博の成功は地球に住む者みな、地球市民として自然という、すなわち八百万(やおよろず)の神々の叡智を希望と勇気として意識することではないか。
2005/3/25(産経新聞朝刊) 


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