規模拡大から機能の連結・統合へ

 ー転換求められる都市設計の発想ー   建築家 菊竹清訓

《広さより使い勝手の良さ》

 日本は技術立国らしく、生活のIT(情報技術)化では世界最高の水準にあるといっていい。幼児から高齢者までを対象に教育や健康産業も盛んだし、何より、まだまだ海外と比較しても日本社会には自由があり安心がある。

 それでも近年は、災害や凶悪犯罪の多発、ホームレスの増加に加えて、各種のテロの脅威も増してきている。加えて人口減少、高齢化、大都市への一極集中など静かではあるが厄介な問題を抱え始めていることも事実だ。

 同様の変化は、建築や都市の再生についても起きている。

 例えば、建築では高度成長期の人口増加に伴う、際立った量的拡大と機能分化によって施設の細分化が進み、病院建築、ホテル、マンション、オフィスなど、目的別、個別的に建設が進んだ。しかし今、都市がひたすら規模の拡大を目指す時代は終わった。全体としてみれば、むしろ縮小の方向に転じており、機能の連結や統合といったことのほうが見直され始めている。

 すなわち、居住空間はただ広く大きければいいという時代から、空間構成の心地よさ、使い勝手のよさなどが求められ、リニューアルにあたっては、何が居住空間としてあるべき姿なのかが改めて問い直されている。要約すれば、空間の大小よりも融通性の方がより大きな問題として認識されるようになってきたということである。

 都市に目を転じれば、都市建設というものは、20世紀にあっては、住区としていかにあるべきかを中心に進められてきた。しかし、IT化が進み、情報が質・量ともに著しく向上したことで、生活選択の自由度が急速に広がり、実際に実現するようにもなっている。

《充実度増すための2要素》

 こうした変化の中、都市づくりで重要なポイントは2つある。

 1つは、交通や情報のネットワークとその相互の節点(ノーダルポイント)をどこにどう作るかという問題である。それによって、都市機能の利便性は大きく影響され、都市の個性創出、都市の発展も左右される。

 例えば、住宅地域に合わせて商業地区をつくるよりも、道路と一体化した商店街づくりの方が、住民にとっては便利であり、そこにはコミュニケーションも生まれる。結果的には、それが地域の安全にもつながり、かつ都市の盛衰にも関係してくるということである。

 ネットワークを結ぶ節点での工夫も重要だ。例えば航空路と鉄道を簡単に乗り継げるように結びつければ、旅客には便利だし、時間も有効に利用できる。空港計画には、鉄道や高速自動車道の乗り入れ・連携が必要不可欠になっている。地下鉄と路面電車の併用もまた、同じ理由で新しい都市再生には重要な要素として見直されている。
 もう一つは、衣・食・住のすべての面で、いかに多くの選択肢を用意できるかという点である。多チャンネル化は都市生活をより自由で豊かにする。

 IT化が進む一方で、人口減少を迎えている都市の再生を考えるとき、これら2つの要素は重要な決め手となる。都市の間でも世界レベルでの競争が始まっているときに、このような選択肢を高めることができる都市構成への変革は、人々の自由を促進し、都市生活の充実度を増す。


《日本から都市文化発信を》

 都市の人々の生活行動にもIT化によって徐々に変化がでてきている。情報化が進めば、急速な文化ミックス現象が生まれてくる。文化は不変だと思われているが、日本は新しいものを積極的に取り入れてどんどん変化し、選択枝を増やしていく独特の推進力を持っている。

 日本の文化は、芸術から生活文化まで、音楽、絵画から礼儀作法、華道、茶道、装道、合気道などに至るまで、実に裾野が広い。1000年の伝統の底力であり、教養の高さではないか。

 これは一人の力でできるものではなく、社会全体のレベルによるもので、文化大国が自然に進むべき方向をつくり出してきている。

 そこで、衣・食・住だけをみても、全産業の努力によって日本はめざましい選択枝の充実をみている。この新しい衣・食・住をはじめとする多彩な選択肢をもった文化を統合した新しいライフスタイルで、海外支援を開始し、先進国と途上国の差を縮め、貧富の落差を埋めていき、自由、平等、平和に向かって、希望と夢のある世界構築に貢献していくのは、日本の世紀の課題なのではないだろうか。

2006年7月3日(産経新聞朝刊) 


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