自転車と歩行者共存へ向けて提案

ー電柱地下化や環境貢献度評価導入をー

 ≪川のある街と自転車都市≫

 明治初頭に日本に自転車が持ち込まれ、1893年に初めて国産の安全型自転車が販売されて以来、現在わが国は8000万台を超える自転車保有大国になった。

 利用者数の進展に伴って自転車事故は増加傾向にあるが、自転車専用路の整備は遅れたままである。事故対策として、自転車専用路の確立を検討するという方針には賛成である。しかし、それには地域住民にとっての主要な道路から実行し、成果が上がればさらに進めるといった過程を踏まえた整備計画を推進してもらいたい。そうした自転車路の導入が都市再生に役立つようであれば、新しい環境の美しさや豊かさ、安全性を見いだすきっかけになるだろう。

 自転車は開放的で健康にも良く、騒音や振動、排出ガスの心配もない。子供から老人まで手軽に利用でき、通勤・通学、主婦の買い物、公園への散歩から観光まで、利用範囲が広い。しかも省スペースで持ち運びも可能で、都市での補助的交通手段にふさわしい。それなのに、都市への本格的な導入が進んでいないのは、いささか不思議である。
 1972年、北九州市に「自転車都市」の提案をした。東京の隅田川、京都の鴨川、北九州の紫川に代表されるような、都心に川がある都市では地下に駐車場を備えるなどして川岸空間をもっと活用し、自転車の利用を促進すれば街の発展に有効だと考えた。北九州市は、海岸沿いの5つの都市(小倉、門司、戸畑、八幡、若松)を合併してできた100万都市で、ほとんどの市域が水平である。このような地形は、自転車都市に適しているといえよう。

 ≪先進地オランダに学ぶ≫

 国民の自転車所有率が最も高いオランダでは、都市で自転車をどう使うかさまざまな工夫が重ねられてきている。例えば、住居地域から学校・商業地域まで限定して自転車専用路が設けられ、驚いたことに、車・電車・徒歩のための交通信号のほかに、自転車専用の信号が設けられている。また、海風が強いので透明ガラスの風除壁が一部に設けられていて、通行を保護している。アムステルダムやロッテルダムの市内では至る所に自転車置場が設けられ、自転車は都市所有の共有道具として自由に使用できる。つまり、自転車も「都市インフラ」の一種だと考えられている。

 北九州市では、猪狩達夫氏が門司と下関を結ぶわが国で最初の“ツール・ド・北九州”のアイデアを提案された。往路は関門海峡の大架橋を渡り、復路は海底トンネルを通って、5都市を繋(つな)ぐ海岸道路から素晴らしい景観を楽しめる。海峡を通過する大型客船の音楽隊が海からレース応援するなど面白い企画だが、まだ実現していない。

 また、北九州市のシンボルとして計画した競輪ドームの設計では、一部の人々だけでなく、市民みんなが自転車に親しめるスポーツ公園を考えた。自転車レースの出発・ゴール地点はもちろんこのドームからで、屋外広場は自転車から車いすまで、誰もが楽しみながら交通ルールやマナーを学べる場とした。その一部は実現したが、さらにもっと自転車がいかに幅広く都市生活をサポートするか、事故や犯罪を防ぐ安全な環境づくりへの貢献を見守りたい。

 ≪自転車路整備だけでなく≫

 「自転車都市」の実現には、自転車路のルートを整備するだけではなく、総合的な都市インフラづくりを目指すことが重要ではないか。そのためには、市民みんなが交通整理や安全確保のボランティア活動などに自由に参加できるのがよい。

 また、花や緑の生け垣、街路樹による都市の緑化に配慮し、駐輪場の整備はもちろん、街路照明やサイン計画の若干の見直し、電柱の地下ケーブル化、通信網や給排水管を一括して共同溝に整備する必要もある。できれば地下シェルターなども併設し、災害用に役立てたい。

 自転車の利用によって環境負荷が軽減される分を地域通貨などに換算して還元すれば地域全体の活性化や意識の向上にも役立つだろう。さらに、科学技術のさらなる進歩によって、自転車を漕ぐエネルギーを利用した蓄電・発電システムが実現し、地域への提供が容易にできる時代がくるかもしれない。

 自転車路が発端となって、市民生活に密着したメーンルートの整備に役立てば、都市の発展にも繋がってくる。このような計画に、全国の建築や都市にかかわる技術専門家グループが賛同し、一緒に実現に向けてご尽力くださることを期待している。

2007年6月2日[産経新聞正論] 日本建築士会連合会 名誉会長 菊竹清訓


Copyright 2003, Kikutake Kiyonori., all rights reserved.